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2018/12/12 特別インタビュー

「トルストイと音楽」展インタビュー

「トルストイと音楽」展
音楽を通して文豪の人柄と暮らしを知る

現在、民音音楽博物館では、トルストイの生家を公開しているL.N.トルストイ屋敷博物館「ヤースナヤ・ポリャーナ」との共催による「トルストイと音楽」展が開催されています。音楽を通してトルストイの人柄や暮らしを紹介するこの企画の見所について、同博物館のイリーナ・アフォニナ報道局長、エレーナ・アレヒナ渉外担当主任専門官に伺いました。


――まずは日本の人々に、「トルストイと音楽」展をどのように鑑賞してもらいたいですか。


エレーナ 今回の展示は、トルストイと音楽の関係、彼が音楽をどのように愛していたかに光を当てた独創的な企画です。トルストイはどんな音楽が好きだったのか、どんな風に音楽を楽しんでいたのかを知っていただくことで、文豪トルストイではなく、一人の人間としてのトルストイに触れることができます。この展示を見れば、文豪トルストイが今までよりぐっと身近に感じられることと思います。音楽には通訳や翻訳の必要がありません。肩に力をいれず、気軽に多くの人に訪れていただきたいですね

イリーナ 実は私自身、トルストイのことをより深く理解できるようになったのは、作品を通してというより、音楽を通してなんです。その人がどんな音楽を好きかということは、その人の感情や人間性をダイレクトに表します。私はトルストイが音楽について書いた文章を読むことで、彼との心の距離が縮まりました。トルストイの作品は、読めば人生や生活上でのヒントを必ず見いだせるすばらしいものです。でもたとえ、トルストイの作品を読んでいない人でも、「トルストイと音楽」展をご覧いただければ、トルストイの豊かな世界を楽しんでいただけると思います。

――実際にトルストイは、どのように音楽を楽しんでいたのでしょうか。

イリーナ トルストイは子供の頃から音楽にいそしんでいて、ピアノも弾きました。家にはショパンやベートーベン、チャイコフスキーなどの楽譜が沢山ありました。あれだけの楽譜コレクションをもっていた作家はまずいません。自身でワルツも作曲しています。また作品のなかで、これほど音楽について触れている作家もいないのではないでしょうか。『クロイツェルソナタ』などはまさに音楽をモチーフにした作品ですし、ソナタ形式など音楽の形態にのっとって書かれた作品も数多くあります。子供たちもみんな音楽が好きで、トルストイ家では、何かというと家族で歌や楽器演奏を楽しんでいました。トルストイの子供たちは回想録で、自分たちは寝床で両親のピアノの連弾を聴きながら寝付いた、とも言っています。息子のセルゲイはモスクワ音楽院を卒業した作曲家で、ミハイルは「ロマンス」という曲の作者として有名でした。

――展示物で来館者にとくに見てほしいのはどのようなものですか。


エレーナ
 トルストイは「自分の家にいて幸せを感じられる人が本当に幸せな人だ」と言っています。今回の展示では、そんな文豪の日々の生活のなかにあった身近なものの複製が展示されています。例えば、トルストイが着ていたシャツなどを見ると、彼の好みや世界観がよく分かると思います。また珍しいのが、ソフィア夫人が手作りで衣装をつくっていた木の人形です。この人形はトルストイ家の伝統で、おもちゃとして遊んだり、クリスマスツリーの飾りに使ったりしていました。直筆原稿もいくつか展示されていますが、とくに注目していただきたいのが当時、18歳だったソフィア夫人へのプロポーズの手紙です。彼女に断られたらどうしようという、トルストイの切羽詰まった思い、感情がありのままに綴られています。

イリーナ 今回の企画の展示スペースは、決して広いわけではありません。でも実はトルストイの生家も一つひとつの部屋は狭いんです。彼の住まいと同じように、小さな空間でも、トルストイという大きな人間を感じてもらえる展示になっています。

エレーナ トルストイの屋敷自体は36部屋もあるのですが、トルストイは離れの小さな部屋に住んでいました。「ヤースナヤ・ポリャーナ」を訪れた人は、彼が暮らした部屋の狭さに驚きます。彼の印税収入からすれば、もっと贅沢な暮らしができたはずなのですが、トルストイには小さな部屋のほうが居心地が良かったようです。

――L.N.トルストイ屋敷博物館「ヤースナヤ・ポリャーナ」はロシアの名所として有名ですね。


エレーナ
 当博物館は、ロシアが生んだ偉大な文豪に関するオリジナルのコレクション4万点を収蔵し、ロシアの文化を知るうえでは必ず訪れるべき重要な場所です。ここを訪れる人はみなさん、その素朴さ、シンプルさに驚きます。そして周囲の森や野原、公園などの美しい自然環境に感動します。

イリーナ トルストイの作品は自伝的要素が強く、作品のなかで彼をとりまく自然がよく描写されています。トルストイは「自分はヤースナヤ・ポリャーナなしにロシアを想像することができない。ロシアに対する自分の感情を描くことができない」と言っています。「ヤースナヤ・ポリャーナ」を訪れると、彼が作品のなかで描いている風景を見ることができます。実際の風景を見ることで、作品の読み方、味わい方もより深まります。「トルストイと音楽」展をご覧になり、トルストイの人間性や暮らしに興味をもった方は、ぜひ本物の「ヤースナヤ・ポリャーナ」へも訪れてほしいと思います。