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History of MIN-ON.

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Vol.6 民音・クラシック音楽50年の歴史 青澤唯夫氏 特別寄稿

  • 1.民音創立10周年記念「ミュンヘン・オペラ(バイエルン国立歌劇場)」
  • 2.英国ロイヤル・バレエ団
  • 3.モーリス・ベジャール/ベルギー国立20世紀バレエ団
  • 4.カール・ベームとウィーン国立歌劇場
  • 5.ミラノ・スカラ座
  • 6.ハンブルク・バレエ
  • 7.英国ロイヤル・オペラ
  • 8.民音が招いた名指揮者たち

ハンブルク・バレエ

「ハンブルク・バレエ」を私が初体験したのは1986年1月の来日公演だが、その後も89年、94年、97年、2005年、2009年…と何度か日本を訪れている。魅力的なステージが、私たちの国でも広く愛されている証しだろう。

ハンブルク・バレエ団の起源には諸説あるが、17世紀初頭以来ハンブルク歌劇場で活躍した由緒あるバレエ団で、1973年から現代バレエの旗手ジョン・ノイマイヤーが芸術監督に就任して独創的な新作を次々に舞台にかけ、ドイツはもとより世界的な注目を集めている。

マタイ受難曲
「マタイ受難曲」
1986.2.16(日)広島郵便貯金ホール
原爆慰霊碑献花
「原爆慰霊碑献花」
1986.2.15(土)広島平和記念公園

ノイマイヤーは、世界の名だたるバレエ団に振付作品を提供しているが、踊り手としても個性豊かな傑物で、自作の『マタイ受難曲』でキリスト役を踊ったり、「20世紀バレエ団」25周年記念公演でベジャールが彼のために改訂したイヨネスコの戯曲による『椅子』をマリシア・ハイデと踊ったりもしている。

バレエは〈音楽〉であり、〈舞踊〉であり、〈身体表現〉であり、〈演劇〉でもあるから、その内容、技術ともに優れていなければつまらない。ハンブルク・バレエは多様な要求を高い水準で実現し、観る人を考えさせ、感動の渦に巻き込んできた。

ノイマイヤー自身は、「観客を楽しませ、満足させることを目的にしてはならない。自分にとっての〈真実〉を作品として舞台の上に創作する。芸術は、人びとに楽しんでもらうことを目的としたエンターテインメントとは違う」(大意)と語っている。

ノイマイヤーは公演会場の下見で1985年に来日した際、ヒロシマの平和記念資料館を訪れて強い衝撃を受け、「人類愛を謳歌した作品で、平和に貢献したい」と来日公演への抱負を述べたという。その86年公演は、『真夏の夜の夢』(音楽はメンデルスゾーン、リゲティ)で人間の喜劇性、憎悪、愛の葛藤を通じて人生を描き、『バッハの管弦楽組曲第3番』、『モーツァルトの交響曲ハ長調K.338』、『マーラーの交響曲第4番』、『バッハのマタイ受難曲』、ドイツ民族の悲劇的な歴史を描いた『マーラーの交響曲第3番』など、古今の名曲に振付けした〈シンフォニック・バレエ〉の意欲作が並んでいた。

ノイマイヤー独特の表現による音楽の〈真実〉が、観る者の心を打ち、世界の人びとに共通する普遍的な〈真実〉となって、強く訴えかける。『マタイ受難曲』はキリストの受難をモチーフにしたものだが、人間愛への問いかけ、人びとの受難が表現され、戦争の惨禍に見舞われた人びとに捧げられている。

アーサー王伝説 くるみ割り人形
「アーサー王伝説」
1989.3.17(金)神奈川県民ホール
「くるみ割り人形」
1989.3.15(土)NHKホール

89年3月公演は、中世ヨーロッパの壮大な叙事詩にもとづく『アーサー王伝説』(音楽はシベリウスとヘンツェ)、シェイクスピアの名高い喜劇をモーツァルトの音楽で踊る『お気に召すまま』、それにチャイコフスキーの人気バレエをノイマイヤー流に作り変えた『くるみ割り人形』で、現代を生きる舞踏家・振付師・演出家の鋭敏な意識が、卓越した踊り手たちによって、深遠な内容、美しい情景で描かれた新たなドラマとなって、私たちの感性を揺り動かした。

幻想~「白鳥の湖」のように
「幻想~「白鳥の湖」のように」
1994.3.3(木)愛知県芸術劇場
椿姫
「椿姫」
1997.2.26(水)東京文化会館

94年3月の『幻想~「白鳥の湖」のように』では、チャイコフスキーの名作バレエがワーグナーに心酔してノイシュヴァンシュタイン城を造営した狂王ルードヴィヒ2世の回想に置き換えられ、ファンタスティックに描かれた。ペルト、プレトリウスの音楽による『オテロ』も秀逸だったし、ストラヴィンスキーの音楽による『春の祭典』、『マーラーの交響曲第5番』は、ノイマイヤーの巧緻な振付けと見事な舞台構成で、音楽の単なる視覚化を超えて鮮やかな人間讃歌となっていた。

97年2月の『椿姫』は、デュマ・フィス原作の悲恋物語をヴェルディのオペラではなくショパンの名曲を用いてドラマティック・バレエに仕立てたもの。繊細な人間心理の綾、洗練された感情表現が絶妙で、パ・ド・ドゥの美しさは息をのむほど。劇中劇で「マノン」の悲劇を織り込んで、マルグリットの心理を重層的に描くことに成功した。ホメロスの叙事詩を題材にした『オデュッセイア』ではオデュッセウスが自転車に乗って登場したが、戦争の無意味さが伝わってくる。踊り手の質の高さ、群舞にも感心させられた。『スプリング・アンド・フォール』、『ナウ・アンド・ゼン』、『バーンスタイン・セレナーデ』は、私は観ていない。

2005年の『眠れる森の美女』は、ジーンズ姿の青年がオーロラ姫の世界に入り込み、プティパの古典的振付けとノイマイヤーの新振付けによって伝統と現代が結ばれる。錯綜する愛の姿を描いた『ニジンスキー』や『冬の旅』も評判になった。

2009年2月の『人魚姫』は、2005年のアンデルセン生誕200年を記念した作品。詩人と人魚姫の悲しみ、孤独が悲痛なまでに表現されていた。『椿姫』は97年に日本初演されて話題を呼んだ名作の再演。変化した面もあって、バレエは生き物だから、上演される度に新たな発見や感動がある。

眠れる森の美女 人魚姫
「眠れる森の美女」
2005.1.27(木)神奈川県民ホール
「人魚姫」
2009.2.12(木)NHKホール

ノイマイヤーとハンブルク・バレエは、振付けが意味深く鮮烈で、踊り手が優れ、その表現が徹底しているから、人によっていろいろな見方、さまざまな解釈ができる。私たちの想像力を大きく飛翔させる力を秘めている。その作品に込められた人間への深い愛は、決して色褪せることがないだろう。

青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
音楽評論家。作曲、音楽理論を学び、ピアノ教師を経て評論活動に入る。1967年から新聞、雑誌、百科事典などに執筆。FM放送パーソナリティ、音楽賞選考委員、国際コンクール審査員、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会長などを歴任。日本ショパン協会理事、日本ベートーヴェンクライス理事、日本イザイ協会顧問、浜松国際ピアノコンクール運営委員。著書に『名ピアニストの世界』、『名指揮者との対話』(第17回ミュージック・ペンクラブ賞・最優秀著作出版物賞)、『ショパンを弾く』、『ショパン-その生涯』、『ショパン-その全作品』、『鳴らす力聴く力』など。

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