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History of MIN-ON.

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Vol.6 民音・クラシック音楽50年の歴史 青澤唯夫氏 特別寄稿

  • 1.民音創立10周年記念「ミュンヘン・オペラ(バイエルン国立歌劇場)」
  • 2.英国ロイヤル・バレエ団
  • 3.モーリス・ベジャール/ベルギー国立20世紀バレエ団
  • 4.カール・ベームとウィーン国立歌劇場
  • 5.ミラノ・スカラ座
  • 6.ハンブルク・バレエ
  • 7.英国ロイヤル・オペラ
  • 8.民音が招いた名指揮者たち

ミラノ・スカラ座

シモン・ボッカネグラ
「シモン・ボッカネグラ」
1981.9.1(火)東京文化会館

ミラノ・スカラ座の舞台が日本で観られるなんて、ほとんどの人が思わなかったのではないだろうか。1981年9月に、その招聘が実現するまでは。

最初の交渉が始まったのは、当時の民音専務理事秋谷栄之助氏によれば1965年というから、紆余曲折を経て16年目の大願成就になる。歌い手やコーラス、オーケストラ、衣裳、舞台装置まで、スカラ座の建物以外すべてミラノからやって来た。出演者やスタッフ、裏方、料理人など総勢500人ちかい陣容で、ワインも樽ごと運ばれてきたそうな。

指揮者がクラウディオ・アバド、カルロス・クライバー、ロマーノ・ガンドルフィ、歌手はドヴォルスキー、カップチルリ、ドミンゴ、ヌッチ、フレーニ、ギャウロフ、フルラネット、トモワ=シントウ、ヴァレンティーニ=テラーニなど錚々たる顔ぶれ。

演目は、ヴェルディの『シモン・ボッカネグラ』、『オテロ』、プッチーニの『ボエーム』、ロッシーニの『セビリアの理髪師』。それにヴェルディの「レクイエム」、ロッシーニの「小荘厳ミサ曲」の特別演奏会もあった。

最初の演目は『シモン・ボッカネグラ』(9月1日、東京文化会館)。このオペラは1976年にNHKの「イタリア歌劇団」でも上演されたが、その時のシモン役カップチルリ、フィエスコ役のギャウロフも同じ役で出演したが、今回は名ソプラノ、フレーニが加わり、スカラ座の名だたるオーケストラや合唱団、フリジェリオの美術・衣裳も総動員なのだから、そのスケールがまるでちがった。

『シモン・ボッカネグラ』は、民衆の群れが重要な役割を演じる。演出したストレーレルはヴェルディ自身の理想だった〈イタリア統一〉の熱望と、苦悩や愛の葛藤といった人間のドラマを描こうとしたというが、貴族と市民の対立や様式美とリアリズムが、鮮やかなコントラストのもとに表現され、本場のオペラならではの深い感動を生み出した。カップチルリの緻密な声と演技、フレーニの情熱や悲しみを歌い上げた陶然とさせる美声、ギャウロフの圧倒的な役づくり。歌い手に配慮しその歌唱を存分に聴かせ、歌と調和させながらオーケストラを主役のように響かせたアバドのオペラ指揮者としての練達の手腕!

イタリア大使ビアンケーリ氏は「スカラ座はイタリア国家統一運動に尽力し、人びとに結束を促す拠点でもあるんだよ」と語っていたが、その洗練された物腰、語り口は、優れたオペラをもつことがさまざまな面に反映するのだなと思わせた。

オテロ
「オテロ」
1981.9.5(土)NHKホール

『オテロ』(9月5日、NHKホール)では、クライバーの変幻自在な指揮に魅せられた。表情豊かなピアニッシモから強烈なフォルティッシモまで、オーケストラから絶妙な表現を引き出す。彼の指揮ぶりはさながら〈見る音楽〉であった。ゼッフィレルリの大胆な舞台設定、個性的な演出は賛否が分かれた。なにしろ原作が強力なので、演出者の能力が顕わになるのだろう。オテロ役のドミンゴはかつてのデル・モナコよりも繊細で、心理の綾がよく活きていた。ヤーゴ役のカローリは歌も演技も凡庸。ソプラノのトモワ=シントウは清冽な歌唱で、清純さが際立っていた。コーラスも文句なしに素晴らしかった。

セビリアの理髪師
「セビリアの理髪師」
1981.9.16(水)NHKホール

『セビリアの理髪師』(9月16日、NHKホール)は、アバドの指揮で、演出はポネル。弦楽器の清澄で爽やかな響き、軽快なリズムは序曲から終幕までまったく淀みがない。フィガロ役のヌッチが元気できっぷのよい新興市民ぶりを巧みに演じて出色。ロジーナ役のヴァレンティーニ=テラーニは〈ロッシーニ歌い〉の名声に恥じず、声も技巧も達者なもの。

『ボエーム』(9月21日、東京文化会館)は、クライバーの指揮で、演出はゼッフィレルリ。ミミ役はダブル・キャストだったが、私の観た日はフレーニで、哀切感は心に沁みるものがあった。ロドルフォ役のドヴォルスキーはチェコ出身の新鋭。声も歌唱もあまりイタリア的でないのが難点で、芸達者なフレーニの相手役としては表現が一本調子。将来を期待させる逸材だが、他の演目に登場した名歌手たちに見劣りするのは確かであった。しかし、クライバーの精緻な指揮、作品を知り尽くしたオーケストラや合唱団の名演が、すべての弱点をカバーするほど感動的であった。幕切れの余韻を打ち壊す、あまりにも早過ぎるブラヴォーと拍手には耳を覆いたくなったけれど。

ボエーム
「ボエーム」
1981.9.21(月)東京文化会館
レクイエム
「レクイエム」
1981.9.3(木)東京文化会館

ヴェルディの「レクイエム」(9月3日、東京文化会館)は、アバドの指揮、トモワ=シントウ、ヴェレンティーニ=テラーニ、ルケッティ、ギャウロフといった名歌手、優れたオーケストラ、豊麗な合唱団が揃い、雄渾で壮大、至高とも言うべき敬虔な世界に私たちを誘った。この名曲を知悉したオーケストラや合唱団が上手なのは当然としても、オーケストラ・ボックスのなかで演奏するのではなくて、反響板のあるステージ上で演奏する音響的な優位は歴然たるもので、私は圧倒的な感銘を受けた。ロッシーニの「小荘厳ミサ曲」は、私は聴いていない。

こうして世界第一級の舞台芸術に触れる機会を得られたことは、人びとの心や人間性を豊かにし、私たちの生活のなかにいろいろな形で生き続けているにちがいない。

青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
音楽評論家。作曲、音楽理論を学び、ピアノ教師を経て評論活動に入る。1967年から新聞、雑誌、百科事典などに執筆。FM放送パーソナリティ、音楽賞選考委員、国際コンクール審査員、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会長などを歴任。日本ショパン協会理事、日本ベートーヴェンクライス理事、日本イザイ協会顧問、浜松国際ピアノコンクール運営委員。著書に『名ピアニストの世界』、『名指揮者との対話』(第17回ミュージック・ペンクラブ賞・最優秀著作出版物賞)、『ショパンを弾く』、『ショパン-その生涯』、『ショパン-その全作品』、『鳴らす力聴く力』など。

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