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History of MIN-ON.

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Vol.6 民音・クラシック音楽50年の歴史 青澤唯夫氏 特別寄稿

  • 1.民音創立10周年記念「ミュンヘン・オペラ(バイエルン国立歌劇場)」
  • 2.英国ロイヤル・バレエ団
  • 3.モーリス・ベジャール/ベルギー国立20世紀バレエ団
  • 4.カール・ベームとウィーン国立歌劇場
  • 5.ミラノ・スカラ座
  • 6.ハンブルク・バレエ
  • 7.英国ロイヤル・オペラ
  • 8.民音が招いた名指揮者たち

モーリス・ベジャール/ベルギー国立20世紀バレエ団

ロメオとジュリエット
「ロメオとジュリエット」
1967.6.3(土)東京体育館
ロメオとジュリエット
「ロメオとジュリエット」
1967.6.3(土)東京体育館

天才的な振付家モーリス・ベジャールの率いたベルギーの『20世紀バレエ団』は、まさに20世紀に誕生した、斬新な現代感覚、人間の運命や孤独、愛と死、生き方をバレエで描くことに成功した、20世紀という時代を象徴する傑出した芸術家集団であったと私には思われる。

『20世紀バレエ団』は、1960年からベルギー王国附属のバレエ団として活躍していたので、ベルギー国立と呼ぶべきなのか、王立と呼ぶのが相応しいのかよくわからないが、ベルギーを代表する実力を備えたバレエ団であったのは間違いない。「あった」と書いたのは、1987年に本拠をスイスのローザンヌに移し、『ベジャール・バレエ・ローザンヌ』と改称して、いまは存在しないからである。〈バレエの美は瞬間的なもの。振付者よりも長生きすべきではない〉というベジャールの考えを象徴しているのかもしれない。

『20世紀バレエ団』を民音が招聘したのは、1967年5月のことであった。『ディベルティメント』、『一人の男のためのシンフォニー』、ベジャールの代表的傑作として知られる『春の祭典』、『プロメテウス』、『弦楽四重奏のための5つの小品』、『白鳥』、『ボレロ』、そして千駄ヶ谷の東京体育館に円形の大ステージを作って上演されたシェイクスピア原作の悲恋物語にもとづく人間の愛と信頼、「戦いをやめて恋をせよ」と高らかに歌い上げた『ロメオとジュリエット』が披露された。

愛が私に語りかけるもの/ジョルジュ・ドン
「愛が私に語りかけるもの/ジョルジュ・ドン」
1978.4.25(火)東京文化会館
死が私に語りかけるもの
「死が私に語りかけるもの」
1978.4.25(火)東京文化会館

『ロメオとジュリエット』は、有名なチャイコフスキーやプロコフィエフの音楽ではなく、音楽の革命家ベルリオーズの劇的交響曲『ロメオとジュリエット』が使われていた。いかにもベジャールらしいと私は思ったものである。『春の祭典』では彫りの深い容貌が印象的だった名手ジェルミナル・カサド、ベジャールの振付けた作品のなかで最もポピュラーな人気を博した『ボレロ』を踊って大スターとなった若き日のジョルジュ・ドンも出演していた。全部で17公演だったという。

それから、民音創立15周年を記念しての1978年4月のマーラー、ストラビンスキー、ゲーテを特集した話題の公演があった。私の観た東京文化会館のほか、全部で22回上演されたということである。ストラビンスキーの『春の祭典』は、もともとディアギレフの主宰するロシア・バレエ団のために作曲されたバレエ音楽だが、1913年5月のパリ・シャンゼリゼ劇場での初演は大スキャンダルを引き起こした。指揮者はモントゥー、振付はかのニジンスキーであった。バレエのための音楽として素晴らしいものなのに、初演されてから半世紀ちかくを経てベジャールによる〈異教徒の生贄の儀式〉ではなく、〈人間の生命賛歌〉としての画期的な振付けが登場するまで、圧倒的な成功を獲得したことはなかったのではないか。




我々のファウスト
「我々のファウスト」
1978.5.18(木)東京厚生年金会館
春の祭典
「春の祭典」
1978.5.2(火)名古屋市民会館

1978年の来日公演は、マーラーの音楽による『死が私に語りかけるもの』、『さすらう若者の歌』(男と男の「パ・ド・ドゥ」をベジャールは創造した)、『愛が私に語りかけるもの』(ニーチェの言葉が使われていた)、ストラビンスキーの音楽による『火の鳥』、『ペトルーシュカ』、『春の祭典』の三部作、バッハの「ロ短調ミサ」とアルゼンチン・タンゴを背景のように用いて、ゲーテの原作に沿って演劇の要素も深く取り込んだ『我々のファウスト』が演目であった。

マーラーの音楽にしても、ゲーテの『ファウスト』にしても、それ自体が独立自存する世界をもつ傑作である。それを〈愛の法悦〉として形象化することで、ベジャールの内面世界が強烈な説得力をもって描き出されていた。ベジャールが自伝で回想していることだが、「ストラビンスキーが、自分だけが責任者だと思っている楽譜に他の振付師が独自の感情を盛り込むことに我慢できなかったのだと思う」(大意)のだから、他人が作った名曲に想定外の新しいイメージを振付師が創作するのは、実は容易なことではない。しかもそれを敢えてする意味を観衆に納得させ、感動させる作品に作り上げるのは、凡人にできることではないだろう。

それはひとりモーリス・ベジャールだけでなく、ストラビンスキーの『春の祭典』を作品化したドイツのコンテンポラリー・ダンスの振付家ピナ・バウシュや、マーラーのシンフォニーを舞台に乗せたハンブルク・バレエの振付家ジョン・ノイマイヤーにも言えることだろう。〈舞踊というのは、見る音楽〉であるということが、あれほど鮮烈に印象づけられる機会はめったにないだろう。そして同時に、それは「考える音楽」でもあった。豊かな教養とフレッシュで壮大なファンタジー、形象化する能力、卓抜な造形力、偉大な創造力は、ベジャールの振付師としての際立った存在を納得させるものであった。それはバレエ界にとっても、私たち観る者にとっても新たな地平を拓くものとなったにちがいない。

青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
音楽評論家。作曲、音楽理論を学び、ピアノ教師を経て評論活動に入る。1967年から新聞、雑誌、百科事典などに執筆。FM放送パーソナリティ、音楽賞選考委員、国際コンクール審査員、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会長などを歴任。日本ショパン協会理事、日本ベートーヴェンクライス理事、日本イザイ協会顧問、浜松国際ピアノコンクール運営委員。著書に『名ピアニストの世界』、『名指揮者との対話』(第17回ミュージック・ペンクラブ賞・最優秀著作出版物賞)、『ショパンを弾く』、『ショパン-その生涯』、『ショパン-その全作品』、『鳴らす力聴く力』など。

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