ENGLISH
English

History of MIN-ON.

  1. 8
  2. 7
  3. 6
  4. 5
  5. 4
  6. 3
  7. 2
  8. 1

Vol.6 民音・クラシック音楽50年の歴史 青澤唯夫氏 特別寄稿

  • 1.民音創立10周年記念「ミュンヘン・オペラ(バイエルン国立歌劇場)」
  • 2.英国ロイヤル・バレエ団
  • 3.モーリス・ベジャール/ベルギー国立20世紀バレエ団
  • 4.カール・ベームとウィーン国立歌劇場
  • 5.ミラノ・スカラ座
  • 6.ハンブルク・バレエ
  • 7.英国ロイヤル・オペラ
  • 8.民音が招いた名指揮者たち

民音創立10周年記念「ミュンヘン・オペラ(バイエルン国立歌劇場)」

民音の50年におよぶ歴史のなかから、クラシック音楽をめぐる絢爛たる歩みをご紹介しよう。〈世界を音楽文化で結ぶ〉民音の壮大な試みは、私たちに何をもたらしたのだろうか。

民音が創立されたのは1963(昭和38)年とのことだが、私が民音の公演に初めてふれたのは1966年秋、旧ソ連のノボシビルスク・バレエ団の初来日公演で、『白鳥の湖』であった。まだ日本との平和条約も結ばれていなかった〈鉄のカーテン〉の向こう側から、詩情豊かな芸術の贈り物が届いたのである。その力強い舞台表現は、驚きとともに、感銘深いものであった。以後も毎年のように、私たちの期待に応える優れた企画が次々に目と耳を奪った。

1974年10月には、バイエルン国立歌劇場(ミュンヘン・オペラ)が大きな話題を集めて来日した。民音が創立10周年を記念して招聘したもので、総監督の大演出家レンネルト、音楽総監督のサヴァリッシュをはじめ、ライトナー、C・クライバーといった名指揮者など、すべてのスタッフを含む総勢330名の大規模な、ミュンヘンからの大引越し公演であった。

歌い手も、B・ニルソン、M・プライス、I・コトルーバス、R・グリスト、G・ジョーンズ、J・ヴァラディ、B・ファッスベンダー、J・キング、D・フィッシャー=ディースカウ、T・アダム、K・エンゲン、K・リッダーブシュなど、オペラ史上に残るような錚々たる顔ぶれであった。

このドイツ屈指の名門歌劇場は、1818年に創設され、戦争や火災によって何度か破壊されたが、再建されて、輝かしい伝統と業績を誇っている。1860年代には伝説的なハンス・フォン・ビューローの指揮で、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』や『ニュルンベルクのマイスタージンガー』が初演されたところでもある。

ドン・ジョヴァンニ
「ドン・ジョヴァンニ」
1974.9.21(土)東京文化会館
ワルキューレ
「ワルキューレ」
1974.9.22(土)東京文化会館

9月21日、東京文化会館でのモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』で幕を開けたが、華やかな舞台のなかに、人間の愛と孤独、死が凄絶な影を落とすレンネルト一流の演出を、指揮のサヴァリッシュは冒頭の宿命的なニ短調の和音からドラマティックな終幕にいたるまで、抑制の利いた知的なアプローチでむしろ淡々と歌い上げた。私は1階20列右側の席で聴いたが、ステージのバランス感覚が秀逸であった。

2日目は、ワーグナーの大作『ワルキューレ』で、人間の情愛を深層心理の綾とともに深々と描き出す。この『ワルキューレ』は1870年に、ミュンヘン宮廷劇場で初演された力作である。3日目は、モーツァルトの日本でも最も親しまれている傑作オペラ『フィガロの結婚』で、いずれも演出はレンネルト。昨今よく見受けられるように大胆な読み替えや奇を衒うことはなく、音楽の導く世界を最優先した正統的な舞台であった。『フィガロの結婚』にしても、ロココ時代に題材をとりながら時代を超えた人間の普遍的な性格や好色性、おかしさを天才モーツァルトの優雅な音楽に託して、音楽的な喜劇としての魅力が強く打ち出されていた。

フィガロの結婚
「フィガロの結婚」
1974.9.23(月)東京文化会館
ばらの騎士
「ばらの騎士」
1974.9.28(土)東京文化会館

最後の演目は、その昔この歌劇場の音楽監督として偉大な足跡を残したR・シュトラウスの『ばらの騎士』。オットー・シェンクの演出は、宮廷文化華やかな時代の滅びゆく美しさを、鮮やかな人物描写で現代に甦らせたが、天才的なカリスマ指揮者カルロス・クライバーが独特のひらめきと洗練されたウィットに富んだ音楽で、私たちを魅了した。どれもがミュンヘン・オペラの定評ある得意の演目である。

なかでも、カルロス・クライバーのバレエ・ダンサーを想わせるような躍動感あふれる流麗な指揮が生み出した『ばらの騎士』のリアリティと愉悦感に、私は心底感嘆したものである。カルロスはその後、1981年と88年にミラノ・スカラ座、86年にバイエルン国立歌劇場オーケストラ、94年にウィーン国立歌劇場とともに日本のステージに登場している。

バイエルン国立歌劇場日本公演は、そのスケールの大きさとオペラ全般に関わる徹底した姿勢から、オペラハウスがまだ1つもなかったあの頃の日本の音楽界が学ぶべきものは少なくなかった。私は東京文化会館大ホールで観たが、大阪フェスティバルホールでも上演された。優れた音楽を通じての国際交流の重要な意味は言うまでもないが、何よりも最高に楽しく、感動的であったことを特筆すべきだろう。

もう42年も前のことで、細かいところまで具体的に私が覚えているわけではないが、作品自体の素晴らしさ、鍛え上げられた名歌手たちの名唱、地に着いた演技は忘れ難いものであった。それらを軸に巧みにまとめられた総合芸術としてのオペラの舞台。大きな話題とともに、私たちに投げかけたもの、それらは日本のオペラ上演史に残る画期的な出来事であったにちがいない。

青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
青澤唯夫(音楽評論家)Tadao Aosawa
音楽評論家。作曲、音楽理論を学び、ピアノ教師を経て評論活動に入る。1967年から新聞、雑誌、百科事典などに執筆。FM放送パーソナリティ、音楽賞選考委員、国際コンクール審査員、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会長などを歴任。日本ショパン協会理事、日本ベートーヴェンクライス理事、日本イザイ協会顧問、浜松国際ピアノコンクール運営委員。著書に『名ピアニストの世界』、『名指揮者との対話』(第17回ミュージック・ペンクラブ賞・最優秀著作出版物賞)、『ショパンを弾く』、『ショパン-その生涯』、『ショパン-その全作品』、『鳴らす力聴く力』など。

12345678

PAGE TOP

  • 広報誌「みんおんクォータリー」
  • 民音音楽博物館
  • ヴァーチャル民音音楽博物館
  • 民音WEBクラブ
  • 民音キッズ
  • ミュージアムショップ
  • クラシック名曲絵本
  • 東京国際音楽コンクール〈指揮〉
お問い合わせ
当協会へのお問い合わせはこちらからどうぞ
お問い合わせはこちら