「中日韓音楽劇シンポジウム」
瀬川昌久

 民音と渡辺音楽文化フォーラムの共催で、10月20日(日)東京国際フォーラム・映像ホールで、「『アジア“今”』〜中国・日本・韓国の音楽劇をめぐって〜」と題するシンポジウムが開催された。パネリストに、中国から呉江中国京劇院院長、韓国から演出家の林英雄、日本から演出家鵜山仁と、国際交流基金アジアセンターの畠由紀の各氏が出席し、司会進行を扇田昭彦(静岡文化芸術大学教授・演劇評論家)、コーディネーターを藤田敏雄(演出家)がつとめた。

 アジア諸国、特に中国、韓国、日本には、古い歴史を有する伝統的音楽劇が存在し、西洋音楽の要素もとり入れ乍ら、今日も活発に上演されている。最近は、日中、日韓間の種々の形の交流提携による合作も進行している折、三国の音楽劇の現状を紹介することによって、新世紀における3国、ひいてはアジアの国々が協力して、新しい舞台芸術を創造する可能性を探求していこう、という趣旨である。

シンポジウム会場全景
シンポジウム会場全景

〈アジア各国音楽劇の現状〉
 先ず呉江氏が中国の代表的古典劇である京劇について、唄があっても歌劇、舞劇ではなく、せりふがあっても話劇とも違う高水準の戯曲であること、役者が時空を十分に活用することによって舞台音楽が生まれ、整合された美が発揮されること、政府がその長い歴史を大切にして助成していると説明した。狭義の音楽劇は、過去20年間ブロードウェイから学び、1997年から創作が始まったが、まだミュージカル専門劇団は生まれていない。古典歌劇は独自性のある作品が出ており、中央歌舞団が「トゥーランドット」や「椿姫」を題材にした音楽劇を作った。政府は京劇を更に発展させるよう予算面で配慮しており、優秀な戯曲作品が出現していると述べた。

 続いて、林英雄氏が韓国の最近の音楽劇をビデオで紹介し、ミュージカル以外の伝統的な音楽劇である仮面人形劇やパンソリ(唱劇)について説明し、国立小劇場が伝統的唱劇を育成して現代的な舞台を完成したこと、本格的ミュージカルは、1969年の「そっと来て下さい」が初で、パティ・キムが主演し、主題歌がヒットしたことなど、80年代以降オリジナル作品(明星皇后、地下鉄一号線)の海外公演を実施し、本年ドイツ作品の翻案「GAMBLER」を民音の招きで日本の13都市で公演したこと、韓国日報社が96年来毎年ミュージカル大賞を設定し、新聞報道を通じて大衆の人気が高まったこと、最近は新作の資金を集めるため投資会社を作っており、それによって「オペラ座の怪人」の7ヶ月間ロングランが成立したことなどを説明した。

 次に鵜山仁氏が発言、1998年香港の芸術祭でアジア音楽劇の制作が提唱された結果、昨2001年劇団影法師が北京雑技団と組み、西遊記の孫悟空物語を香港で演出、総勢40人の役者とスタッフが4ヶ国語を使用し、1ヵ月半のアジア各地のツアーを行った経験を披露、来2003年3月は、香港中央劇団で井上ひさし作「十一びきの猫」を演出する予定だ。

 畠由紀氏は、国際交流基金アジアセンターで、シンガポールやフィリピンの作品の日本公演、アジア6カ国共作「リア」のプロデュースの体験を述べた。ミュージカルが最も盛んなのはフィリピンで、早くからブロードウェイ作品を英語で上演し、「ミスサイゴン」の主役をつとめる世界的女優が出ていること、アジア各国の演劇は音楽を伴なうものが多く、せりふにも音楽性があることを説明した。

〈現状の問題点と今後の課題〉
現状をふまえて今後の課題と将来性についての討議が活発に展開された。

呉 江(中国京劇院院長)
林 英雄(演出家)
呉 江(中国京劇院院長) 林 英雄(演出家)

扇田: アジア各国のミュージカル界は、外国作品の人気が強く圧倒的な輸入超過にある。今後はアジア発の国際的に通用する優れた作品で興行的にも成功するミュージカルが出現してほしい。それには日本のオリジナル作品にもいえるが脚本の問題がある。もっと練り上げた脚本が必要で、もっと過去の優れた文学に題材を求めたらどうか。

林: ソウル市立歌舞団(今はソウル市立ミュージカル団)が66年以来積極的に創作をすすめ、その出身者が今日活躍している。半官半民の「ソウル芸術団」も創作を主とし、民間にも幾つかあるが、今日までの数十本の作品の中、優れたものは5本位しかない。日本と同じで良い脚本が少ない。ミュージカルは芝居の数十倍の経費がかかる上、ブロードウェイ作品など集客力のある作品にのみ投資家の関心が集中して環境はきびしい。しかし資本がなければ良い作品はできないから、3ヶ国が共同して才能ある人材を集めてアジア発を考える時が来ている。舞台芸術としての音楽劇には、アジアに才能のある人が多いから成功すると思う。

呉: 既に中国人役者が「悟空」や「リヤ王」にも参加している。日中韓、香港、シンガポール、印度など文化的に似たものが多く、中国文化も歴史上各国の影響を吸収してきた。アジアの創作音楽劇にはいろいろの方式がある。模倣時代を過ぎて、独自の良いものを出すべきで、アジア文化の長い歴史から、ブロードウェイに劣らぬ優れたものを作ることが出来ると思う。マクドナルドより北京ダックの方が好きですから(笑)。
アジア各国の劇の共通点を模索し、共通認識をもって題材を探すこと、「悟空」のようにアジア皆が知っていて直ぐ理解出来るもの、「七夕織姫」の話も良い。唯各国のものを一緒にするのではなく、その現実の深層を理解することが必要だ。中国は創作ミュージカルに500万〜1,000万(?)を出している。各国が共同して良い作品を作れば資金は調達出来ると思う。3ヶ国で情報交換の場を作るのに、中国は積極的に協力する。

畠: 各国の共同(Collaboration)は、云うは易く実行が難しい問題で、唯付け加えるのではなく、呉氏のいわれた深層を理解する過程が重要だと思う。「リヤ王」には、6カ国から各種の異なる芸をもつ役者が集まったのが、良い結果をもたらした。

鵜山: 役者の多様性、言葉の違いなどはむしろプラス要因で共通性と多様性とのぶつかり合いから結果が生まれる。音楽劇のビジュアルな点もプラス面だ。

扇田: 言葉の問題はどうでしょうか。

林: 音楽劇は歌と踊りが多いなら筋が判り易く、素材が共通で理解し易ければ、言葉の壁はうすい。

扇田: 素材の問題は?

畠: 案外にむずかしい。「リヤ王」を選んだのは、アジアの一つの国のものをベースにするより、シェークスピアのような誰もが知っているアジア外の作品の方が選び易かったからだ。

〈今後の具体策について〉
 出席者との自由討議の場で、次の提言があった。

 取り敢えずは3カ国で情報交換と今後の具体的実行案を討議する委員会を作ったらどうか、純演劇の方でも、既にアジア間の討議が行われているが、それと共同でも独立でも良い、そして出来れば、3ヶ国から作品の脚本を募集して委員会で審査する。その上で、音楽も3カ国から募集して、徐々に共同作の内容を固めていったらどうであろうか。

 最後に、民音と渡辺音楽文化フォーラムの代表から、本日の討議内容を踏まえて、何らかの前進的な案を考えたい旨の発言があって有意義なシンポジウムを終了した。