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Concert Reviews

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ヴァリアン・フライ・カルテット

ヴァリアン・フライ・カルテット〜ベルリン・フィル弦楽四重奏団〜繊細で流麗な音色と精緻なアンサンブル
蒔田裕美(音楽評論)

民主音楽協会創立55周年記念公演に、ベルリン・フィル弦楽四重奏団「ヴァリアン・フライ・カルテット」が登場した。メンバーは、全員が世界最高峰のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の所属で、第2ヴァイオリンで活躍する日本人、マレーネ・イトウ(伊藤真麗音)をはじめ、フィリップ・ボーネン(第1ヴァイオリン)、マーティン・フォン・デル・ナーマー(ヴィオラ)、レイチェル・ヘラー(チェロ)の若き俊英たち。

カルテットの名称になったヴァリアン・フライは、ナチスによる迫害から多くの人々を救ったアメリカ人ジャーナリスト。救援された人々の中には、アンドレ・ブルトン、マルク・シャガール、マルセル・デュシャン、マックス・エルンスト、アルマ・マーラー=ヴェルフェルなど芸術家や知識人も数多い。「ヴァリアン・フライ・カルテット」は、苦悩する者のために命を懸けて闘った勇者に敬意を表している。

「ヴァリアン・フライ・カルテット」は、2013年にバーデンの「イースター・フェスティバル」で正式に旗揚げ公演を行って好評を博した後、アメリカ、アジア、ドイツで演奏活動を行った。2018年1月から待望の日本初ツアーが始まり、各地で10公演開催したが、今回は2月5日(大田区民ホール・アプリコ・大ホール)の演奏を紹介する。

プログラム最初のモーツァルト《アダージョとフーガハ短調K. 546》で第1ヴァイオリンを務めたのは、マレーネ・イトウ。抑制された滑らかな音色が織りなす静謐なアダージョから、格調高い4声フーガに入り、クライマックスで一気に勢いを加速させる緻密さが光った。

次のハイドン《弦楽四重奏曲第38番変ホ長調Op. 33-2, Hob. III: 38「冗談」》は、フィリップ・ボーネンが第1ヴァイオリンに交代。冒頭から、ハイドンらしい朗らかで伸びやかな響きが広がる。特に、ボーネン奏でるヴァイオリンの艶やかな音色が逸品。ボーネンがポルタメントをかけると、いかにもウィーン風の洒脱な香りが漂い、心が躍る。第4楽章は、ユーモラスなフィナーレから、この曲が「冗談」という通称を持つ所以となった楽章。終結部でゲネラルパウゼ(総休止)を何度も入れ、終わりかと思いきや、なかなか幕切れにならず笑いを誘うのだが、今回は茶目っ気溢れるアプローチとは一味違った。小気味よく進みながらも、程よい緊張感を保ち、ラストで張りつめたテンションを一気に解放させたのが新鮮であった。

1部最後のショスタコーヴィチ《弦楽四重奏曲第8番ハ短調Op. 110》では、ハイドンの軽快な雰囲気から一転、チェロの出だしから劇場全体が陰鬱な空気に覆われた。第2楽章で、ピアノ三重奏曲第2番に用いられた「ユダヤの旋律」が現れる部分では、旋回する音の渦に飲み込まれていくような迫力と凄みがあった。第3楽章は、デカダンな雰囲気が濃厚で大いに酔わせてくれた。特に、マーティン・フォン・デル・ナーマーのヴィオラからは、まるで悪魔とのワルツに耽溺しているような爛れた響きが放たれ、今でも頭から離れない。第4楽章は悲痛な魂の叫びが聴こえ、続く第5楽章でメンバー全員が慈しむように鎮魂歌を奏でながら、魂のうごめきを浄化させるかのようであった。第5楽章までアタッカで一気に進むこの劇的な作品に、固唾を呑んで聴き入ってしまった。

第2部のラヴェル《弦楽四重奏曲ヘ長調》では、マレーネ・イトウが第1ヴァイオリンに交代。イトウのヴァイオリンから繰り出される透明感のある清らかな音色が際立った。第2楽章で全員がつま弾くピツィカートも、瑞々しさに溢れ心地よい。第3楽章は、幻想的な夢の世界が展開される美の極致であった。抒情的な旋律を紡ぎながらも、決して重くなることがない。ほんの少し息を吹きかけただけでも消え入りそうなほど、デリケートで洗練された音作りをみせた。最終楽章は5拍子と3拍子が交錯する激しい箇所であるが、緩急の強調や余分な力が入ることなく、気品を保ちつつ華やかに締めくくられた。このカルテットの持ち味である、高度なテクニックに裏打ちされた繊細で流麗な音色と精緻なアンサンブルは、色彩感とリリシズムが求められるラヴェルの弦楽四重奏曲で遺憾なく発揮された。

プログラム終了後、マーティン・フォン・デル・ナーマーが日本語で挨拶を述べると、会場はさらに熱気を帯び、アンコールとなった。アンコール曲は、東日本大震災復興支援ソングである《花は咲く》。一点の混じり気もなく心から慈しむように奏でる《花は咲く》を聴いただけでも、メンバー全員が観客の受けを狙うような媚びや俗っぽさとは無縁の次元に立ち、真摯に音楽と向き合っていることが分かる。「ヴァリアン・フライ・カルテット」が音楽を通じて人々に希望を与える使命を持っていることを強く確信した。

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