アフリカ音楽紀行の第3回目として、地中海沿岸の北アフリカに焦点をあて、その中でも今回は砂漠のオアシスとして、スペインから14キロの距離で対峙するヨーロッパの玄関として、またアラブ文化の重要な拠点として様々な文化が共存し独自の発展を遂げてきた『モロッコ』。アフリカ、アラブ、ヨーロッパそれぞれの影響が交差するモロッコの音楽文化を通して、ヨーロッパを中心に世界中の旅行者を魅了しつづける「モロッコ」という国の美しさ、素晴らしさを皆様にご紹介したいと考えております。
モロッコの最も代表的な民族音楽でバクダッドから北アフリカ、スペイン・アンダルシア地方で熟成され成立したアラブ・アンダルシーア音楽の歌手で“モロッコの花”と称され国際的に活躍するアーティスト、アミナ・アラウィ女史します。
パワフルかつ繊細でのびやかな歌声は多くの人々を魅了しつづけています。
サハラ砂漠で発達し西アフリカの黒人によって広められた音楽で、鉄のカスタネットが特徴的な『グナワ』の来日。更に、モロッコ南方のスースー地方より先住民ベルベル人による歌と踊りと演奏の『タチノイテ』は女性ダンサー4名に囲まれ女性の歌手がエネルギッシュに踊ります。モロッコを代表する音楽文化の粋を集めた本格的な公演となります。 |
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「モロッコの音楽」公演に期待する |
水野信男(民族音楽学) |
北アフリカの西北端に位置するモロッコは、マグリブ(日の没する地)の王国と呼ばれる。比較的温暖な地中海・大西洋岸から、一歩、アトラス系山脈がそそり立つ内陸部に立ち入ると、そこは乾操風土で、気象の変化が激しく、生活環境はことのほか厳しい。
私は過去、3回、モロッコの音楽を現地に尋ねた。最初はアルジェリアのトレムセンから国境を越えてウジュダヘ。次にはチュニジアから飛行機で、沈む太陽を追いかけながらカサブランカへ、もう一度はやはり飛行機で、パリから首都ラバトへ、というように。こうして私は、モロッコに旅するごとに、過酷な大地に悠然と生きる心豊かな人びとがますます好きになった。むろん、その音楽も。
モロッコの音楽といえば、真っ先に「アラブ・アンダルシーア音楽」が思い浮かぶ。9世紀ごろ、イベリア半島のイスラーム王朝で生まれたこの宮廷組歌は、レコンキスタ(国土回復運動)を経て北アフリカヘ口頭で伝えられた。その結果マグリブ諸国では、
いまなお、馥郁(ふくいく)とした響きをたたえたアラブ・アンダルシーア音楽が聴かれる。モロッコでは毎年、北部の町シェフショウエンにフェズやテトゥアン、タンジェなど、国内の諸都市から音楽家が集まり、アラブ・アンダルシーア音楽祭を開く。来日するアミナ・アラウィはそんな古典音楽の伝統の延長上に出現した大歌手である。彼女の洗練された歌声は、聴く人にモロッコとスペインの国境を意識させることがない。
モロッコには「グナワ」と呼ぶ、西アフリカ系の音楽もある。そのメイン・レパートリーには、鉄製カスタネット「カルカバ」が登場する。中南部の史跡都市マラケシュのジャマーア・アル・フナー広場で、私はこのグナワの躍動的なラインダンスにであった。
モロッコのアトラス地方やスース地方などの山岳地帯には、北アフリカ先住民のベルベル人が母語ベルベル語を話して暮らしている。彼らの育む独自の民謡や踊りは、麗しくも、また圧巻である。
今回の「モロッコの音楽」公演では、これらの幅広いジャンルを代表する音楽家たちが期せずして一堂に会する。マグリブ王国ならではの、彼らのかぐわしい情感を湛えた音楽が、ここ日本の各地で、私たちの耳と目を堪能させてくれるにちがいない。
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