中近東は、今 世界でもっとも注目を集めていますが、その地域の文化(言語、音楽、芸術、宗教、習慣、等)はあまりにも知られていないのが現状です。
中近東の中でとりわけアラブには、すばらしい音楽文化が存在していますが、その中でもエジプト、レバノンは特にすぐれていると言われています。
レバノンは、長く内戦が続きましたが、その音楽文化は継承しつづけられました。
そのレバノンよりこの度初交流国として、「レバノン芸術団」を招聘します。
文明の十字路・レバノンから伝統とモダンの融合、東西文明の融合をテーマに「レバノン芸術団」が来日します。
アラブの文化を日本に紹介する絶好の機会であり、時を得た企画です。
レバノン芸術団は、Dance Troup と 演奏家で構成されます。
ファード・アブダラ・レバノン芸術団は、内戦がはじまってまもない1978年に設立し、それ以来、政治と宗派を超えて、レバノンの文化の継承と創造につとめきました。
同団は、アラブ世界に留まらず、国際的な舞台で数多くのフェスティバルに参加してきました。
また、昨年レバノン国内で開催されたバールベック国際フェスティバルに参加しました。
リズミカルなステップ、剣の舞、ラインダンス、かけ声、手拍子は、この地方の伝統的な民族舞踊です。
イスラム神秘主義の旋舞(スーフィー)は、これまでも民音の舞台でもシリアやエジプトの舞踊団で紹介しました。
ひたすら旋回することにより、トランス状態になり、神との合一をめざすこの旋舞は、この地方の舞踊の特徴でもあります。
また、モダンバレエを取り入れたダンスもあり、明るく楽しんで頂けます。
レバノンは、シルクロードの西の果て、そして、北アフリカへとつづく道、また、地中海を通じてヨーロッパへと繋がる道です。
まさに文明の十字路です。
このレバノン芸術団は、伝統とモダンの融合、東西文明の融合がテーマとなり、素晴らしい舞台が展開され、必ずやお客様に喜んで頂けると思います。
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公演にあたって
このたび民音では、ファード・アブダラ・レバノン芸術団を招聘し、全国で公演を開催する事となりました。
中近東は今、世界でも注目を集めていますが、その文化はあまり知られていないのが現状です。中近東で、とりわけアラブには、すばらしい音楽文化が存在しています。その中でもエジプト、レバノンは、繊細な旋律と伝統的な舞踊の数々で特筆すべき音楽文化をもっていると言われています。
レバノンは、アラブ諸国の中で唯一、砂漠がない国として、古代にはフェニキア人の地中海貿易の拠点として発達、近代においては中近東随一の商業都市として栄えました。特に、首都ベイルートのヨーロッパ的な街並みは「中東のパリ」と称えられています。また、永く内戦が続きましたが、今は復興が進んでいます。
レバノン芸術団は内戦が始まってまもない1978年にファード・アブダラ氏によって設立されて以来、文化の継承・創造につとめてきました。
今回、伝統とモダンの融合 ・ 東西文明の融合をテーマに素晴らしい舞台が展開される事と思います。
本公演にご支援、ご協力いただきますよう何卒宜しくお願い申し上げます。 (MIN−ON)
レバノンの音楽と舞踊
「フェニキア人」「聖書」「レバノン杉」・・・こんな古代史にかかわるいくつかのキーワードをもつレバノンは、1943年、アラブ人の国として、独立した。岐阜県ぐらいの広さに、300万人あまりが暮らす。人びとは、イスラム教のほか、マロン派をふくむキリスト教各派、ドルーズ派など、数多くの宗派を、めいめいに信じている。
レバノンの音楽と舞踊は、おもに、ベドウィン(アラブ遊牧民)に、そのルーツをたどることができる。ラバーバは、長方形の木枠の両面に羊皮をはり、それに指板用の棹をとりつけた、簡素な1弦の弓奏楽器である。「吟遊詩人のラバーバ」ともいわれ、ベドウィンはそれをみずから弾きつつ、伝承詩をうたう。一方、ウードはアラブの代表的な撥弦楽器で、その音色は人の声のようにソフトで、深い。ウードは世界各地につたわり、ギターや琵琶に生まれ変わっていった。打楽器のダルバッキは、素焼きの円筒の片面に羊皮や魚皮をはった太鼓で、バチをつかわず素手で打つ。その手指を駆使したこまやかな奏法が、アラブの繊細なリズムをはじきだす。
レバノンの舞踊は「ダブカ」に代表される。ダブカはヨルダン、シリア、レバノンなどにみられるライン・ダンスである。ダブカの語源はシリア語で、「足をふみならす」こと。戸外で隊列をつくり、たがいに腕をくみ、手をつなぎ、リズミカルに大地をけり、ダイナミックにうたいおどる。ダブカは、隊列先頭のリーダーがハンカチをぐるぐるまわすので、俗に「ハンカチ・ダンス」ともよばれる。ベドウィンの結婚式や聖者祭では、そこにあつまった人々によって、このダブカが、いつはてるともなく、楽しげに演じられる。
16世紀にこの地域がオスマン帝国の版図にはいったころで、スーフィー(イスラム神秘派)の信仰がひろまった。いわゆる「踊るデルヴィーシュ」である。今回の公演では、その旋舞(旋回舞踊)も、演目のひとつにとりあげられる。
現代のレバノン舞踊の特徴は、アラブの民族舞踊を近代西洋文明の影響下で、モダン・バレエを応用するなどして、徹底的に洗練し、斬新なるものに改変したことである。この結果、レバノン舞踊は、みずからのアイデンティティをもちながらも、中東地域をはるかにこえて、全世界にアピールするレベルに達した。それはアラブ文化圏の中でも、「コスモポリタンな地中海人」といわれるレバノン人だけがなしえた、芸術的成功例なのだ。
さて、今日のレバノン音楽の特徴は、なんといっても、ベカー高原のバールバックでとりおこなわれる国際音楽祭であろう。巨大な石柱がそびえるユピテル神殿の廃墟で、1950年代にはじまったこの音楽祭は、レバノン随一の人気女性歌手、ファイルーズの登場で、一躍有名になった。近年、内戦で一時中断したものの、いままたレバノンの夏の風物詩として復活し、世界の音楽家たちの競演の場となっている。実際、バールベック国際音楽祭への出演は、レバノンの音楽家にとって、またとないステータスをうることを意味するが、来日するファード・アブダラ・レバノン芸術団も、昨年その舞台にたった。
レバノンの首都ベイルート市内では、いまなお建築ラッシュがつづく。「中東のパリ」が往時の栄光をとりもどす日はちかい。内戦中も、芸術活動は、ふだんとかわりなく続行されたという。そんな民族の心のたくましさと、平和への希求が、レバノンの音楽と舞踊には、ほうふつしている。
民音「シルクロード音楽の旅」、構想されつづけたレバノンの芸術団招聘が、ここにきてついに現実になった。そのはじめての日本公演は、人々を圧倒し、感動の渦にまきこむことだろう。
兵庫県教育大学教授・国立民俗学博物館教授(併任) 水野信男
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