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2015/03/06 民音研究所

開所式が行われました

昨年、民音の創立記念日に設立された「民音音楽博物館付属研究所(民音研究所)」の開所式が、2015年2月26日(木)午後5時から、新宿NSビル30階のスカイカンファレンスで開催されました。

主催者である小林啓泰所長(民音代表理事)のあいさつに続き、佐伯浩治文化庁文化部長、桐朋学園大学の梅津時比古学長より祝辞をいただき、4名の研究員より、研究所のミッションステートメントである「平和構築に貢献しうる音楽の潜在的応用性」について話がありました。

オリビエ・ウルバン上級研究員は、「音楽心理学」の立場から、「音楽的な行為(ミュージッキング)を行うと、脳内のホルモン分泌が増えることがわかってきています。たとえばドーパミンや、オキシトシンが増えます。これは、重要です。ドーパミンが増えると期待や希望が生まれ、オキシトシンが増えると、心の絆や愛情などの感情が増し、一体感を持つことができるからです。しかし、音楽だけがこれらのホルモンを増やすわけではないことや、そのことによるデメリットもあり、まだまだ、研究が必要なことは確かです。これらの研究は、実際に音楽療法などの分野で、利用されていますが、個人的には、音楽療法の境界線が拡大し社会の中で人間関係を改善する『社会的音楽療法』ともいうべきものを確立したいと思っています。(趣旨を要約)」と述べられました。

エレーン・サンドバル准研究員は、「音楽教育」の立場から、「私は、音楽教育がいかに社会の発展の手段として活用されるべき可能性があるかを例証するために、『エル・システマ』について話したいと思います。1970年にベネズエラで生まれた『エル・システマ運動』は、比較的、経済的に豊かでない人々に音楽教育がいきわたるように尽力し、オーケストラの教育に集中的に施されている運動です。それが、世界的に広がり、多くの国々で、そこで学んだ人たちが、建設的な社会的目標に役立つ人材になっています。しかし、社会的公正という視点からみると、西洋音楽のみの教育には疑問が残ります。そこで、私が提唱する『コスモポリタン音楽教育実習』は、様々な教育システムによって奨励されてきた優越的世界秩序を撤廃し、文化の多様性を訴え、文化的公正を広めながら、平和構築をサポートするというものです。『コスモポリタン音楽教育』には、民族音楽学的な手法が必要で、その地域社会を調査し、より従属的な人々の声を聴くことが重要となります。(趣旨を要約)」と述べられました。

クレイグ・ロバートソン研究員は、「音楽社会学」の立場から、「私は、研究を通じて『音楽と社会的行動の変化』に関する一つのモデルを作りあげてまいりました。このモデルは、『音楽』『アイデンティティー(独自性等)』『信条』『情緒』『記憶』といった要素、究極的には『行動』の要素がすべて、どれほど相互に影響し合うものか、そのことを実証するモデルなのです。このモデルと、これまでの様々な研究により、音楽には、紛争解決への直接的に強く結びつける、作用があると言えます。とはいえ、これまで、音楽での紛争解決で、完全な形で成功した例はありません。なぜ成功しないのか。それは、一つには、音楽の持つ暗示的な性質ではないかと考えます。もう一つは、『反復が成功のカギを握る』という理解と計画が欠如していることです。音楽的な脈絡では、『集団的接触理論』が要求する、『偏見の最小化』を十分に満足させているわけですから、非日常が日常的になるまで繰り返すこと、このことが重要であると考えます。(趣旨を要約)」と述べられました。

マイケル・ゴールデン研究員は、「音楽生態学」の立場で、「これからお話しするのは、『音楽』と『生態学』と『平和構築』がどう結びつくのか、私の最新の研究結果の概要であります。民族音楽学の研究を通じて私たちが学び知ったことがあります。それは、世界各地の音楽文化にはある共通の要素があるということであり、その共通の要素とは、音楽が私たちを環境に結びつけているという、一つの理解があることです。もし私たちが、人間の音楽活動をさまざまな生物とその環境の関係性から理解するなら、そこから私たちは、その関係性の重要さをまったく新たな見かたから見ることになるでしょう。現在の生態学関連の分野での研究を知るなら、私たちは、人間自身の『本質』を知り、さらに自身の『行動』を知る力を培えるはずです。もし仮に、『暴力的な人間の分断』と『人類の地球への暴挙』がたがいに関連し合うものであれば、『生態学』と『平和』の両者は間違いなく関連し合っているはずです。 そしてもし音楽が、私たちの間に生態学的な物の見かたを(すなわちあらゆる生命体がたがいに関連し合っているということへの理解を)培うことができるなら、私たちは、環境や社会の『両方』で、破壊的な行為を転換することができるでしょう。(趣旨を要約)」と述べられました。

最後にウルバン上級研究員が、全体の総括として「ここまで私たちは、音楽と平和構築に関するこの研究がいかに心躍る、やりがいのあるものか、そしてなんとも広大なものであるかを、皆さんと共有できたものと思います。私たちは、音楽と平和構築に関する『人名録』、あるいは最初に申し述べた『先行研究分析』とともに開始してまいりたいと思います。」と決意を述べ、締めくくりました。

このあと、レセプションが行われ、冒頭、モーツアルトのディヴェルティメントが華やかに演奏されました。