公演にあたって
民音「アイランド音楽の旅」シリーズ

 民音では、世界各地の民族音楽の紹介に早くから取り組んでまいりました。
 1974年からシリーズ企画として提供した「シルクロード音楽の旅」では、シルクロードを経て中央アジア、西アジア、ヨーロッパ、また中国・朝鮮半島からもたらされた音楽をとりあげ、また、それに続くシリーズ第二弾として1984年からスタートした「マリンロード音楽の旅」では、中央アジア、インドから東南アジアを経由して日本に至る「海の道」を通って伝えられた音楽を継続的に紹介し、ともに多くの皆様からご好評をいただいてきました。
 20年以上継続してきた上記の企画が好評のうちに完結し、21世紀はじめからは民音の新たな音楽シリーズ〈アイランド音楽の旅〉がスタートしました。これは大西洋、太平洋、カリブ海など、世界の大洋に浮かぶ島々で歌われ演奏されている民族音楽を紹介するシリーズです。また、歴史を経て海路で結ばれた沿岸の国々との音楽の出会いについても興味深く紹介します。
 “二つの、さらには複数の音楽がクロスオーバーされて、新たな、より生命力のある音楽が生まれる”。それがこのシリーズのテーマです。



89カ国目の交流国、トリニダード・トバゴ共和国より初来日。エクソダス・スティール・オーケストラ!

 今回の「アイランド音楽の旅」でご紹介するのは、ドラム缶から作られた楽器「スティール・パン」のバンド、「エクソダス・スティール・オーケストラ」です。
 民音として89カ国目の交流国となるトリニダード・トバゴ共和国では、スティール・パンは国民楽器として政府から認定されています(1992年)。その音色とリズムは、民衆に愛され、生活に根付いたものです。
 エクソダスは、スティール・パンのコンテスト「パノラマ」や、昨年10月の「ワールド・スティール・バンド・フェスティバル」で優勝を果たし、名実共に世界一の実力を誇っています。
 民音では本年7月から8月にかけて、エクソダスの初来日公演を行います。精鋭メンバー15名による最高度の演奏にご期待下さい。


エクソダス:愛のドラム缶を奏でるチャンピオン達  冨田 晃

 ドラム缶から生まれる愉快な楽器スティール・パン。
「20世紀最後のアコースティック楽器」ともいわれるこの楽器を生み育てたのは、カリブ海諸島の南東端に位置するトリニダード・トバゴ共和国。艶やかな衣装で踊り歩くマスカレーダーたちやこの国の国民歌謡カリプソのシンガーらとともに、高音から低音までの各種スティール・パンで組まれたオーケストラこそが、華麗で壮大なトリニダード・カーニバルの主役だ。
そして150ほどあるこの国のスティール・オーケストラの頂点として今年のカーニバルで見事パノラマ・チャンピオンとなったのがエクソダス・スティール・オーケストラなのだ。
 エクソダスは、その名が示すとおり老舗フラミンゴから1981年に分かれ出た比較的新しいスティール・オーケストラだ。活動拠点であるパンヤードは首都ポート・オブ・スペインから東20kmのサン・アウグスティンにある。リーダーのアインスワース・モハメッドのもと100名を超えるメンバーが参加し緻密で先駆的な創作活動を繰り広げている。そして、デヴィッド・ラダー、マイティー・スパロウといったこの国を代表するシンガーたちに数々の楽曲を提供してきた作編曲家パラム・ゴダードがここ10年ほど音楽監督を務めている。ハミングバード国民栄誉賞受賞者パラム・ゴダードはその卓越したアレンジでエクソダスに3度のパノラマ・チャンピオンをもたらしたほか、カリビアン・パノラマやワールド・スティール・バンド・フェスティバルでもエクソダスを優勝へと導いてきた。
欧米諸国やカリブ海各国での演奏経験の多いエクソダスにとっても日本での公演は今回が初めてだ。このジャパン・ツアーでは、名実ともに世界一のスティール・オーケストラ、エクソダスの精鋭たちが、軽快でダンサブルなカリプソや思わず口ずさみたくなる名曲の数々を、スティール・パンの多彩な魔術にのせて聴かせてくれるはずだ。


YOH Watanabe / STEELLOVE WORLDWIDE

スティール・パンがとても好きです。
そのかわいい音はまるで天使が作ったおもちゃみたいです
でもその優しい音色の楽器を作るときの音を知っていますか?
ハンマーでごんごん叩かれた激しい鉄の音があたりに響きわたります。
ただの粗大ごみが素晴らしい楽器に変身する・・・

パンはフライパンのパン、素敵な音楽を料理します。

僕は今、トリニダード・アンド・トバゴにというカリブ海の島で
長年の夢がかなって、スティール・パンのレコーディングをしています。

沢山の人たちが集まって、それが大きく美しい一つの歌に変わっていく
その瞬間をつかまえたくて
このすばらしい音楽を、少しでも多くの人たちに聴いてもらえたらとおもっています。

でも、時々、かんがえることがあるのです。
CDは結局、音の缶詰なのかなって。
目の前にいるミュージシャンたちの演奏をCDというお皿にのせる時に
100%な汗と熱気が殺菌処理されてしまっていないだろうかって。

とれたての新鮮野菜をその場で食べたらどんなにおいしいか
今まではトリニダードのカーニバルだけでしか
そんな料理を食べることができませんでした。

ほとんど地球の裏側にある特等席です。

今年も100人編成のエクソダスのどまんなかで, その全開の演奏を聞くことができました。
道にならべると150メートルを越えてしまうオーケストラです。
震えているのは自分なのか、空気なのか
南の島の夜空に音楽が大きな翼を広げて飛び立っていく。

そんなときです。スティール・パンの本当の魅力はライブだとおもうのは

エクソダスと知りあってから10年以上になります。
カーニバルの夜、きらきらの音にひっぱられて飛びだしていった2階のバルコニー
ちょうど彼らが通り過ぎていくところでした。
トラックの上に乗ったバンドはとても近くて
手を振るといっしょうけんめい手を振りかえしてくれた。

20世紀に生まれた楽器が作ったささやかな伝説。

エクソダス
今度は私たちの国に彼らがやってきてくれます。
日本の夏が特等席です。
日本の曲だってあります。
この世界に、スティール・パンが演奏できない曲はないというプライドが
懐かしのメロディーたちをどんなふうに料理するのか
本当に楽しみです。

そして会場のサウンド・エンジニアとして、すこしでも多くのかたがたにエクソダスとトリニダード・アンド・トバゴの熱いソウルを伝えるお手伝いができることを光栄におもっています。