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Concert Reviews

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ドラケンスバーグ少年合唱団

ドラケンスバーグ少年合唱団来日公演を拝聴して
笹口圭吾(合唱指揮者)

ドラケンスバーグ少年合唱団の演奏会を聴かせていただいた。先の来日2002年以来、15年ぶり4度目の来日公演であり、合唱団は創立50周年の節目の年だそうだ。

来日公演スケジュールの二日目、7月5日のミューザ川崎シンフォニーホールに赴く。ホールに入ると、場内は大勢の聴衆で熱気につつまれていた。聞けばA、B席共に完売との事。

合唱団は、南アフリカのドラケンスバーグ地方中心に位置する、全寮制の音楽学校に在籍する生徒達で構成されており、同校には南アフリカ全土からオーディションで選ばれた、10歳から15歳までの100名が在籍している。海外公演も積極的に行い、年間40回程のコンサートをこなすそうだ。

我が国では、子どもの合唱といえば児童合唱団、少年少女合唱団という名称で活動する団が多い。女子がメンバーの大半を占め、男子は少ない団がほとんどだ。おまけに変声期を迎えれば、退団を余儀なくされる事もある。カウンターテノールとして、女声パートを歌う事ができれば在団継続は可能であるが、多くの男子にとっては難しい。また、男子だけで編成された少年合唱団は数えるほどしかない。

欧米では「ウィーン少年合唱団」に代表されるように、少年合唱団は大都市には必ず存在する。変声期を迎えても、退団せず一定年齢まで在籍できるシステムの団も多い。変声期前のメンバーがソプラノ・アルトを担当し、変声期後のメンバーがテノール・バスを担当すれば、男子だけで混声合唱の音域をカヴァーできる。ルネサンスからバロック前期頃まで、教会では元来そのような形態で宗教曲が演奏されるのが一般的であったのだが。

本公演も、プログラムには混声合唱曲が多数採りあげられており、「ドラケンスバーグ少年合唱団」もそのような演奏形態である。

舞台上には下手にピアノ、上手にはドラムを中心に複数のパーカッションが配置されていた。

1曲目はモーツァルトの「主よあわれみたまえ」K.222.。ポリフォニーの多用された宗教曲ならではの立体的な構築美のある曲。来日公演二日目。まだコンディション十分とは言えないのか、各声部のアインザッツの音程に多少の乱れもあった。変声期後しばらく男子の声はコントロールが難しく、混声のレパートリーを美しく鳴らすのは至難の業であろう。が、さすがは音楽学校の生徒達からなる合唱団。モーツァルトの様式感を踏まえた演奏であり、古典的レパートリーをしっかり基礎として身に付けている事が確認できた。

続いてチルコットの作品。日本の合唱シーンでも人気の高い作曲家だ。パーカッションをメンバーが担当し、振付、ハンドクラップなども交え、難しいクラスターサウンドも綺麗に鳴り響いた。

南アフリカで有名な「アシンボナンガ」も演奏された。かつて投獄された指導者ネルソン・マンデラ氏の釈放を願う歌。静かな語り口の歌に熱い想いが込められた演奏。続いて同じチルコットの日本の唱歌2曲。

1部の最後はポップスナンバー3曲で閉めくくられた。ダンスパフォーマンスも圧巻である。これは本当に歌いながら踊っているのかと、疑いたくなるほどの激しい振付。踊りながらでもサウンドは全く崩れない。ソロはマイクも使用しているが、クラシカルな歌唱法とは明らかに歌いわけられ、ここでも彼らが音楽の多彩な様式感を身に付けている事が伺えた。合唱団がポップスを演奏すると、少々野暮ったくなってしまいがちだが。

第2部は、アフリカでの止まない密猟の現状を憂い、その解決と世界調和への願いを謳い上げるミュージカル仕立ての計8曲。南アフリカの民族言語であるズールー語やコーサ語で歌われ、時に民族的舞踊も交えながらの、一大ショーと言っても良いほどの圧巻なステージであった。これだけ舞台狭しと踊り、演じながらの歌唱は体力を必要とし、彼らが音楽だけでなく、体の鍛錬も欠かしていない事を伺わせた。

かつて筆者は、リトアニアの作曲家ミシュキニス来日の際レッスンを受け、彼が校長を務める少年音楽学校の授業の様子を、映像で拝見した事がある。音楽だけでなく、環境豊かな広い校庭で、陸上やラグビー、水泳などに打ち込む生徒達の姿が見られた。豊かな声を出すには、健全な肉体が必要であることを、この公演でも改めて痛感した。

35名から成る合唱団は、黒人と白人が入り混じって演奏していた。それはネルソン・マンデラ氏が理想とした姿であり、胸を打たれた。このような素晴らしい音楽教育の施されている学校の存在する事に、憧憬の念を持つばかりである。

日本において子ども達を取り巻く音楽環境は、日々厳しさを増している。少子化の影響は、多くの児童合唱団の存続を難しくしている。教育の現場では近年、音楽専科教員の採用が手控えられてきた結果、音楽室のピアノは埃をかぶり、授業ではCDを流し、それに合わせて歌うだけが日常化している学校も珍しくはない。子ども達に、音楽の魅力を伝えられる大人が、教育現場に不足しているのである。我が国の音楽文化は将来、貧しいものになりはしないかと危惧する。音楽教育は、手段としてなされるべきものではない。それ自体が子ども達にとって必要なものである事を、強く訴えていかねばならない。「ドラケンスバーグ少年合唱団」を拝聴し、その想いを強くした。

合唱団の来日は、かつて民音創立者と、ネルソン・マンデラ氏の出会いから始まった交流が実を結んだものであり、このような素晴らしい音楽と出会える機会をいただいた人々の歴史に、敬意を表したいと思う。

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